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札幌地方裁判所 昭和53年(ワ)5027号 判決

主文

一  被告は原告に対し金二〇〇万円及びこれに対する昭和五三年四月二八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文一、二項同旨の判決及び仮執行の宣言。

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は昭和五二年一〇月二一日訴外松原洋と左記のとおりの自動車損害賠償保険契約を締結した。

証券番号 五七二―二〇二―二四〇―四三

対象自動車 ニツサン八三〇 登録番号五五チ六六五四

保険金 対人三〇〇〇万円、対物二〇〇万円

2(一)  訴外松原洋は次のとおりの交通事故(以下本件事故という)をおこした。

(1) 発生日時、場所 昭和五二年一〇月二三日午前一時ころ、苫小牧市錦町二丁目二番一号先原告店舗

(2) 加害者 訴外松原洋

(3) 加害車 前記保険契約対象車両

(4) 態様 店舗正面突入

(二)  原告は一般雑貨の小売を営業する事業者であるが、右事故により次の損害を被つた。

(1) レジスター二台破損 一三五万円

(2) 休業の為無駄になつた広告宣伝費 六九万〇四〇〇円

(3) 営業損 一二〇万円

以上合計 三二四万〇四〇〇円

3  原告は訴外松原洋に対し三二四万〇四〇〇円の損害賠償請求権を有するが、同訴外人は無資力であるので同人に代位し、第1項の保険契約の約定保険金二〇〇万円及び本訴状送達の翌日である昭和五三年四月二八日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は否認する。原告主張の被告と訴外松原との保険契約は本件事故発生後に締結されたものである。

2同 2の(一)は認める、同(二)のうち原告の職業は認めるが損害については不知。

3  同3は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因2の(一)の事実は当事者間に争いがなく、これと、証人岩佐秀之の証言(一回)及び証人松原洋の証言により成立を認める甲第二号証、同甲第七、第八号証、証人岩佐秀之の証言(一回)により成立を認める甲第四、第五号証、同甲第九号証の五、証人岩佐秀之の証言(一回)及び弁論の全趣旨を総合すると次の事実を認めることができ、これを左右するに足りる証拠はない。

1  原告はその所属する商店街の連合大売出の企画に参加し、その旨の宣伝(広告等)を行ない開店準備していたところ、たまたま右大売出の開始当日である昭和五二年一二月二三日の午前一時ころ訴外松原洋(以下松原という)運転の加害車両が原告店舗正面に衝突侵入し、その為レジスター二台が破損使用不能の状態となつたほか店舗、備品等が損壊し、店舗修復整理の為右同日から同月二五日までの三日間閉店し休業させざるを得なかつた。その後原告は月末でもあり資金繰りの必要にせまられ、やむなく再度広告宣伝を行ない同月二六日から三一日まで半額セールの実施を余儀なくされ約六〇〇万円程の売上を得て急場をしのいだ。

2  原告は右事故により使用不能となつたレジスター二台(うち一台は購入直後であつた)を営業の必要上買換えたが、一台については七〇万円余を支払い(下取価格四〇万円評価)同種のものを、他の一台については破損甚しく下取価格が零と評価され同種のものを再調達する資金的余裕もなかつたので金四〇万円を支払いこれより性能の劣るものを購入した。

原告は本件事故当日から三日間所謂大売出期間中本件事故による店舗の修復、整理等の為休業を余儀なくされ、その間少なくとも一五〇万円を下らない売上収入減少となつた。(製品の原価についての証拠がないので右期間中の原告の営業損額は明らかでないが、証人岩佐秀之の証言(一回)によるとその間約四五万円を下らない得べかりし純益の喪失があつたものと推認できる。)また、本件事故による期間中の営業不能により無為に帰した連合大売出にかかる広告宣伝費及び前記の新たな半額セールの為広告宣伝費として合計六九万〇四〇〇円を下らない支出をした。

3  原告は本件交通事故に関し松原と要旨次のごとき示談を成立させたが、右松原にはこれといつた資力のないこと、

(一)  松原は本件事故による原告店舗(建物)什器、備品の損傷については、その修復、修理に対し責任を負うこと、

(二)  レジスターの破損については松原において新品と買替弁償すること、

(三)  松原は昭和五二年一〇月二三日及び同月二六日の売出の為の広告印刷新聞折込等の経費六九万四〇〇円を負担すること、

(四)  松原は営業損として金一二〇万円を支払うこと、

以上の事実を認めることができ、これらと証人岩佐秀之の証言(一回)を綜合すると、原告は本件事故による営業損、レジスターの損壊、店舗修理、広告宣伝費等により少なくとも二〇〇万円を下らない損害を被つたこと及び松原には右を弁済すべき資力のないことが認められる。

二  そこで本件保険契約の成否について検討する。

成立に争いのない甲第一号証、証人松原洋、同伊藤紀康、同鶴喰正三の各証言によると、次の事実を認めることができる。

松原は所有車両を買替えたことから本件加害車に関し自動車保険に加入すべく昭和五二年一〇月二一日午後五時三〇分ころかねてから勧誘を受けていた被告会社の損害保険代理店伊藤紀康(以下伊藤という)を訪れた。松原は伊藤から保険の内容等の説明を受けたのち対人賠償保険金額三〇〇〇万円、対物賠償保険金額二〇〇万円等請求原因1項記載のとおりの自家用自動車保険(以下本件保険という)に入ることを決め、被告所定の申込用紙に押印する等して右契約の申込をなし、保険料として金五万円を伊藤に交付した。伊藤は右申込を受け被告所定の保険証券に必要事項を記載した。

ところで伊藤は右契約が松原が既に締結していた買換前の車両にかかる自動車保険(以下旧保険という)の継続として処理できれば保険料がより低額になると考えたが、右のごとき処理が可能であるか否かにつき判断し兼ねたため、右の処理ができればそのように処理する旨松原に述べたうえで前記のとおり新規契約の申込を受けた。

しかして伊藤は新規契約の場合の保険料が四万八九〇〇円であつたことから前記のとおり松原から五万円(一万円札五枚)を受領したが、旧保険の継続となれば保険料が変動すると予想されたことから、松原にはつり銭を交付せず、また前記保険証券の記載事項のうち保険料欄は空白にしておいた。

その後伊藤は同月二四日(月曜日)早朝に至りようやく被告会社の担当員に連絡をとり手続を聞いたが継続として処理できないことが判つたので、本件契約はそのまま新規契約として事務処理を進め、保険証券に未記載にしておいた保険料欄に四万八九〇〇円を記入し、被告会社に必要書類を送付した。これを受けた被告は所定の社内処理を経たうえ同月二七日契約締結年月日昭和五二年一〇月二一日、保険料四万八九〇〇円、対物賠償保険額二〇〇万円等を内容とする自動車保険証券(番号五七二―二〇二―二四〇―四三)を作成し、松原に交付した。

以上の事実を認めることができ、成立に争いのない乙第一、第二号証も右認定を左右するに足らず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右によると松原と被告との間では昭和五二年一〇月二一日対物賠償保険金額二〇〇万円その他を内容とする本件保険契約が成立したものと認めることができる。なお、被告は本件保険契約は本件事故発生(昭和五二年一〇月二三日)以降に成立したものであると主張するので付言するに、前記認定事実によれば、松原洋は昭和五二年一〇月二一日被告に対し、本件保険契約の申込をなし、同日被告の損害保険代理店伊藤において承諾をなし、保険料を収受したものであり(領収証が具体的に何時発行されたかは契約の成否、保険料の授受とは直接の関係はない)、ただ同一内容の保険が旧契約の継続という方法でより低額の保険料で成立する場合は松原に有利な右方法による申込があつたものとして処理するとの合意がされていたにすぎないと認められるところ、右の継続処理は不能と判明したのであるから結局昭和五二年一〇月二一日に本件保険契約が成立したものというべきである。

三  以上によると被告に対し金二〇〇万円と右金員に対する本訴状送達の翌日であることが記録上明らかである昭和五三年四月二八日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は理由がある。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宗宮英俊)

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